第25章 気持ちは誰に向いてる?

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夢であることが確定した。なぜなら俺は高校生なはずだからだ。謎の黒づくめの男に変な薬を飲まされた記憶もない。 
なら、そのうち目も覚めるだろう。慌てても仕方がない。
 一度自分の心を落ち着かせてあたりを見渡してみると今自分が立っている場所が見覚えのある道であることに気がつく。助かったと思い、俺はとりあえず自分の家に向かって歩きはじめた。
 しかしふと自分の胸のあたりに付けられている名札を確認すると、そこには「1ねん2くみ しょうだやまと」と母さん独特の丸文字が記されていた。親父が頑張って今の家を建てたのは俺が小学校6年生の時だ。それまでは公園の近くにある団地に住んでいた。
 俺はくるりと向きを変え、過去の記憶を頼りにその団地が立っていた方向に歩きはじめる。
 大きな道はそれほど多くはない通学路ではあるが、意外にもこの時間帯は交通量が多くなるようだった。身長が小さくなった分、いつもよりも車の排気量とかが直接的に伝わってくるような感じがした。もちろん行き交う車が醸し出す威圧感は半端なく、イノシシかってくらいの恐怖を感じた。本物のイノシシなんて見たことはないのだけれど。
 そうこう考えながら歩いているうちに、例の団地が見えてきた。高くそびえ立つその集合住宅は築何十年の歴史を感じさせる古びた建物だ。
 それにしてもと、その建物をいつもよりも低い視点から見上げる。
 夢とは到底思えないほどの再現度である。もちろんそれは夢であって自分の脳が作り出しているものなのだから、俺が過去に見た映像を元にこれは作り上げられているのだろうけれど、それにしたってリアル加減が半端ではないと思った。
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