第25章 気持ちは誰に向いてる?

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子猫というわけでもないけれど、老猫という感じでもない、2〜3歳くらいの猫だったけれど毛並みは荒れていて見た感じ野良猫といった風貌だった。が、そのつぶらな瞳と出で立ちは俺の中の庇護欲を掻き立てる可愛らしさを持っていた。 
と、ここで俺は自分の手元にあるコッペパンの存在を思い出した。ビニル袋から取り出して、小さくちぎり太郎の口元に持っていく。腹が減っていたのか、太郎はムシャムシャとそれを食べ始めた。その光景はなんだかとてもつもなく愛おしいものだった。
 夢の中だというのに、漠然としたものが頭の中でどんどんとクリアになっていくような感じがした。そして同時に俺の脳は色々なことを思い出していた。いや、思い出したというよりは映像が自然と流れ始めたといった方がしっくりくるだろうか。
 
こいつは3ヶ月前に腹を空かしてこの公園で弱っていた猫で、気の毒に思った俺はほとんど毎日ここに来て給食の残りをこっそりとあげていたのだった。本来は給食の持ち帰りは禁止されているが、先生に頼み込んだ結果、お許しをいただいたのだ。
 名前は特に何か由来があったわけではないけれど、桃太郎から一部をとって太郎と名付けたということも思い出した。
 それにしても、これは本当に夢なのだろうか。ここまではっきりと頭が働いている状態の夢を今まで見たことがなかったので、俺は少し戸惑っていた。
 気がつくと手元のコッペパンは全て無くなっていた。腹を満たして元気になったのか太郎は茂みから飛び出していった。
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