第25章 気持ちは誰に向いてる?

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太郎の背中をなんとなくぼんやりと見つめていたその時だった。 
頭の中に色々な情報が、光景が一気に大量に流れ込んでくるように感じた。
 何故だか胸の弾みが止まらなかった。それは吐き気さえ催す勢いのものだった。
 気がつくと俺はランドセルをその場にかなぐり捨てて、猛ダッシュでその背中を追っていた。
 太郎は猫独特の素早さで走り去っていったので、茂みを出た瞬間にはどこにいるのかは分からなかった。
 しかし、どうしてか俺は太郎がどこにいるのか大体の予想がついた。
 そして、その予想通り太郎は公園に面した道路の方に走って行っていた。そういえばこの三ヶ月間、食後はこうやって一緒に走り回ったりじゃれあったりして遊んでいたのを今更になって思い出していた。
 気がつくと俺は後悔していた。どうして俺はこの瞬間、太郎を自由にしてしまったのかと。
 おそらく太郎は今も俺と遊ぼうとこうして走り回っているのだろう。しかし、今自分がどこに向かっているのか、それはまったく理解していないようだった。
 全身に正体不明の寒気が走る。
 それは正体不明というだけあってわけがわからないものだった。一言で言えば不快な感覚なのだけど、どうしてこのタイミングで俺がこんなものを覚えないといけないのか、全く理解ができなかった。
 しかし、頭で色々考えている間にも俺の体は自分でも信じられないくらいの加速を見せていた。
 太郎も加速する。もちろん人間が猫の本気には勝てるはずもなく、その差はどんどん開いていった。
 そして、気がついた頃には太郎は公園の出口を飛び出していた。
 その時点で、俺はやっとの事で先ほどの悪寒の正体を感じ取った。
 気のせいであって欲しかった。願うことならこの後何も起こることなく何事もなく…。なんなら今すぐにでも夢から覚めてしまいたい気分だった。
 しかし、そんな俺の願望がそうやすやすとまかり通るはずもなく。頭の中の片隅にかすかに浮かんだ嫌な予感がまるで魔法でもかけられたのかってくらいその通りに、目の前で起ころうとしていた。
 太郎が公園を飛び出すと同時に、まるでスローモーションのように一台の黒い車が近づいてくるのが見えたのだ。
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