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その瞬間、太郎が道路に横たわっている映像のようなものが脳内で再生された。想像を通り越すその鮮明な映像に、気がつくと俺の足は先ほどを上回る加速を見せていた。
向かって左から太郎に近づいてくる鉄の塊は、この時まったく意識の中にはなかった。俺の視界の中には太郎しか映っていない。
もし、このまま太郎のところに飛び込んだら自分がどうなるか、それはよく理解できていた。恐怖心が一ミリもないわけではなかった。
だけど、それ以上に。
今、この場面をやり直せていることの喜びと、今度こそ絶対に助けたいという使命感みたいなもののほうが百倍くらい大きく自分の中で膨らんでいることにこの時気付いた。
先ほどの身震いした感じがまるで嘘のようだった。
怖い。
でも嬉しい。
恐ろしい。
だけど、希望はある。
自分でも理解不能なごちゃごちゃになった感情を通り越すようにして、俺の体はどこまでも勝手に動き続けた。
「太郎!」
気づけば俺は叫んでいて、体は公園の入り口を飛び越えて道路上に飛び出していた。
そして、その右手がその体に触れた瞬間、俺の心の中は喜びでいっぱいだった。
今までずっと抱えていた自分の中の闇が一気に払いのけられたような気がした。これほどに嬉しいことはなかった。
そして、次の瞬間…。
どん!
大きくて鈍くて耳障りな音がすると同時に
俺の目の前は真っ暗になった。
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