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惜しみながらも上野の膝枕から起き上がった俺はついさっき起きた出来事について聞いた。彼女とお父さんの話によると、新しい世界が作られた瞬間、俺だけが事切れた人形みたいに眠ってしまい、上野には何も起こらなかったということらしかった。
お父さんが腕組みをしながら重々しく口を開く。話の内容もそうだけど、おそらくさっきまでの膝枕も多少はその要因になっているのではないかと思われる。
「おそらくここはさっきまでとは違う新しい世界のはずだ。ただどうやら君の意識だけは別の次元に飛んでいたらしい。何があったか覚えてないのかい?」
「それがはっきりとは…。何か夢を見ていたような気がするんですが」
「おそらくそれは夢じゃない」
お父さんはきっぱりと断言した。
「そこで起きたことが太郎になんらかの影響をもたらしているはずだ」
「影響って…」
「それは俺にもわからないよ。まあ、見た感じ特に何が変わったというわけでもなさそうだが」
その言葉に俺は落胆した。何かを失ったわけではないが、何かを得たわけでもない。いつもならそんな結果になってもなんとなく満足してしまう俺だけど、今回ばかりはそういうわけにはいかなかった。
お父さんはそんな俺の様子を見てか、その顔には到底似合わない優しい微笑みを浮かべた。
「まあ、落ち込むにはまだ早いんじゃないか?しばらく様子を見てみたらいいと思うけどね」
「はい…」
出来るだけその言葉通りにはしようと思ったけれど、なかなかそういうわけにはいかなかった。せめて態度だけでも取り繕おうと思っても落胆の色を隠すことはできなかった。
外の世界の音が全て遮断されたような無音の部屋で俺はしばらくその場を動くことができなかった。そんな俺に二人がそれ以上何か声をかけることはなかった。
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