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今日はいろいろなことがありすぎた。自然と頭の中には上野と梅田の顔が浮かんでくる。
だけど、当然のことながらそこに神田真央の顔だけは浮かんでこなかった。記憶がないのだから当たり前のことだけど、何故だかそれがものすごくさみしく感じられてしまった。
そんなときだった。うつ伏せになっている俺の背中の部分に軽い圧力が加わったのは。
それは柔らかくて、温かくて、小さくて、愛らしい感覚だった。
ーーにゃあ
同時にそんな音が聞こえた。
それと同時くらいに目頭が一気に熱くなるのを感じた。
感触よりも何倍も愛らしいその鳴き声は、言うまでもなく聞いたことのあるものだった。
俺は自分の背中の上に鎮座しているそれを驚かせないように、ゆっくりと身を起こした。背中の上のそれは器用に背中から飛び降りて俺の膝の上に乗った。
「ちょっとお兄ちゃん!太郎のキャットフード買ってきてって言ったじゃん!」
そのとき、ガチャリと無機質な音を立てていきなり部屋に入ってきたのは梢だった。明らかに憤ったような顔だったけれど、その顔はみるみるうちに奇妙なものでも見つめるように丸くなっていった。
「…何泣いてんの?お兄ちゃん?…まさか本当に美人局だったの?」
梢が何か言ったようだった。だけど、その声は俺には届いていなかった。
お父さんの言う通り、確かにこれは俺が100パーセント望んだ形ではなかったかもしれない。
けど、やはりどうしても涙は止まらなかった。
俺に抱きしめられた太郎は気持ちよさそうに俺の胸に顔をうずめていた。
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