第26章 幸せになってほしい

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ーー太郎は生きていた。 
どうやらあのとき…。俺だけが眠っていたあの時に「太郎が生き残る」という新しい世界が作られたらしかった。
俺は何も覚えていないけど、あの日俺が太郎に対して何かしらの影響を与えたことによって太郎は生き残ったのだろうと、お父さんは断言するように言った。
 記憶がないのだから、当然俺にはその実感はなかった。だが、梢も母さんも親父も、太郎はずっとうちに住んでいる家族だという認識だったから、おそらくは過去に何らかの影響を及ぼしたのだろう。まあ、これは推測に過ぎないのだが。
 だけど俺には太郎が死んでしまった世界での記憶は残っていた。はっきりした理由は不明だが、おそらく上野と力を共鳴させる際にその時の記憶を同期させるという能力が俺にも働いたのだろう。これもお父さん曰くの話なのだが。
 そして、あれ以降になって気づいたのだが、自分自身の胸のあたりに大きな傷跡が残っていたことだった。どういう関係があるかどうかはわからないが、きっとこの傷跡は今回のことと大きく関係するものに違いないと思った。
 全てのことはあまりはっきりしないけど、気持ち悪いとか胸に引っかかるということはない。全てが望んだ形になったわけでもないけど、それでも前よりは前向きになれたのではないかと思う。
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