第26章 幸せになってほしい

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そして光陰矢の如しの言葉通り、通り過ぎた時間は約半年。 
世間はゴールデンウィークである。無事梢が高校に合格できたこと以外特に変わったことはない今年のこの時期に特に何か予定が入るということはなかったし、そのつもりもなかった。
 が、どういうわけか俺は上野の家に招かれた。ゴールデンウィーク突入の二週間前に、なぜか登録されていた上野からの電話に出ると「今度うちに来て」と短くそう頼まれたのだ。
 断る理由はなかったし、なんならすぐにでも伺っても良かったのだが、この時期にまで伸びてしまったのは上野からの追加注文があったからだ。
 それは「梅田と太郎を一緒に連れてくる」ということだった。
 その注文は言うまでもなくなかなかに難しいものだった。梅田は大阪だし、太郎は今年で14か15くらいの老猫だ。むやみに外に出すことは躊躇われたし、何より太郎を溺愛している家族の反応が怖かった。
 しかし、その申し出は何故だか断ってはいけない類のもののように感じられた。俺は二つ返事で「わかった」と答え、諸々の準備を済ませてから、今日この日を迎えたのだった。
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