第26章 幸せになってほしい

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自分の上半身と同じくらいの大きさのカゴバッグを持って、俺は約半年ぶりに例の豪邸の前に立っていた。 
そして、まるで透視でもしていたのではないかと思われるほど、タイミングよく上野が家の扉を開いて出てきてくれた。まあ、彼女がもし本当に透視をしていたとしてと、そこまで驚くことではないが。
 「いらっしゃい」
 その顔にはほんのりと笑顔が乗っているように見えた。もしかしたら見慣れていない人が見たらただの仏頂面に見えるかもしれないけど。
 「久しぶりだな。元気だったか?」
 「うん」
 上野とはたまに会ったりはするが、そこまで頻繁には会うというわけでもなかった。平日に彼女が何をしているのかはあまりよく知らないけれど、基本俺は学校があるし、かといって休日に出会うという感じでもなかった。たまに街中でばったり出会うということもあったけれどそれも数える程だ。その中に太郎の様子を家まで見に来るということも一・二回はあった。
 学校はどうしているのか聞いたことがあったが、そもそも宇宙人に勉強はそこまで必要ではなく、その気になれば独学でもできるということだそうだ。何よりわざわざ通う意味もないというらしかったが、それを聞いた時、何故だかとても悲しい気分になったことを覚えている。
 「千里はいつ来るの?」
 「ああ、もうすぐ着くらしい。迎えには梢に行ってもらってる」
 「相変わらず優しいんだね、梢さん」
 相変わらず…か。俺の知る限り彼女と梢は一度も会っていないんだけど、まあそこを掘り下げる必要はないか。
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