第26章 幸せになってほしい

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そういえば、と俺は梅田を連れて再び上野の家に足を踏み入れる際にあることを思い出していた。 
俺が知る限りでは上野と梅田の二人は初対面だ。しかし、上野は前の世界で出会っているということらしい。
 ちなみに俺から梅田に対してはまだその辺りの事情を詳しく説明していない。
 ここに彼女が来たのは「微かに前の世界の記憶が残っている梅田にも知る機会があってもいいんじゃないか」という上野の提案があったからだ。「聞くか聞かないかは本人に任せるけど」という注釈はあったが。
 そして、その旨を俺が大まかに梅田に伝えると二つ返事で「聞きたい」という返答が返ってきた。多分彼女も自分の中にある記憶の断片を解明するきっかけになるかもしれないと踏んだのだろう。
 扉を開け部屋に入る。座っていた上野は椅子から立ち上がりこちらに近づいてくる。そして、真っ直ぐに梅田の方に近づいてきて、その手をギュッと両手で握った。
 「久しぶり」
 それはいつものごとく、のっぺりとした顔のように見えたが、よく見ると目にはうっすらと涙が浮かんでいるように見えた。
 「ごめん…。私は初対面やと思うんやけど」
 そう答えながらも梅田の目も若干潤んでいるように見えた。上野は小さく首を横に振ると、梅田の目を真っ直ぐに見つめた。
 「分かってる。今からちゃんと説明する」
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