第26章 幸せになってほしい

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「正直言って、もうそこまで長くはないと思う」 
「いくつ?」
 「15くらい」
 「そっか…」
 梅田が下唇を噛んで、若干沈んだような顔になったのと同時に、部屋の中はしんみりとした空気になってしまった。しかし、それをもとの空気に戻そうという気にはなれなかった。長年連れ添ってきたことになっているとはいえ、俺からしたら太郎と触れ合うことができたのはあの日以来半年間だけだった。逆に関わってきた時間が短いから過多に落ち込まなくても良いのかもしれないとも思ったけれども、やはり俺も辛いものは辛かった。
 「で?これからどうするんだ?」
 これから先のことを考え込んでさらに落ち込んでしまう前に…と思って、俺は上野に今日の本題に入るように促した。前述したが俺の方も今日どうして俺たちがここに集められたのか、具体的な理由は何一つ聞いていないのだ。
 「今から太郎に力を与える」
 すんなりとよくわからないことを言った。彼女がそういうことを言うのは何も珍しいことではなかったので、最初すぐにその言葉に反応することができなかった。
 が、じわじわと今あがったキーワードが自分の中に入ってくる。そして、思い出す。半年前のあの出来事のことを。
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