第26章 幸せになってほしい

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「また…新しい世界を作るってことか?」 
「それとは違う」
 俺の問いかけに上野はキッパリ首を横に振った。
 「今までは思いの力を共鳴させることによって、ある意味ではその人の願いがその通りになった新しい世界が作られていたけれど、今回はそうじゃない」
 俺と梅田、両方に視線を送りながら上野は淡々と、だけどゆっくり丁寧に言葉を続ける。
 「猫が9回生き返る中で、太郎がこの世界で今度は真央として生まれ変わるための力を直接与えるってだけ。もちろん、それを大和と太郎が望むのであれば…だけど」
 上野は太郎の方に目を向けた。虚ろな目をして動かない太郎は、間近に迫った死をもうすでに受け入れているような佇まいにも見える。
 その太郎に…力を与える?
 「その力は誰が与えるんだ?」
 「もちろん私」
 その返答には迷いなど全くなかった。そのあまりの躊躇いのなさに、こちらが若干躊躇ってしまったくらいだった。
 「共鳴」ではなく「与える」。ほんの少しの言葉の違いかもしれないけれど、そこはどうしても無視できなかった。俺は率直に聞く。
 「その力とやらを与えて、上野自身に影響はないのか?」
 「それはわからない」
 「わからないって…」
 あまりにもすんなりと答える上野に違和感とほんの少しの呆れ感を覚えながら、自然と俺の眉間にはしわが寄った。
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