第26章 幸せになってほしい

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しかし、上野は相変わらず平然としている。その変化のなさがどこか悲しく感じられた。 
「力の譲渡は初めてじゃないし、お父さんにも貰ったこともある。前の世界では大和に力をもらったこともあるけれど、今回のはおそらくその何倍もの力の譲渡が必要。だからどうなるかは分からない」
 当然のことながら俺にはその辺の記憶は全くなかった。そもそも力の譲渡とはどんなことなのかもよくわからない。
 が、郷に入っては郷に従えということわざは少し違うのかもしれないが、それがあるものとして話を進めるほかない。
 「だったら俺の力を与えてやることはできないのか?」
 上野の話を大雑把に解釈すれば、俺は前の世界で結構な力を持っていたということらしかった。どうして俺がそんな力を持っているのかわからないけれど、俺の力があったから前の世界ができたのだとも言っていた。
 新しい世界を作り出す…よくわからないが、おそらくそれはとてつもない力なのだろう。なら、俺一人で賄うことができるのではないだろうか。
 しかし、上野は首を横に振った。それは明確な拒否を示すような所作だった。
 「それじゃあ太郎に力を与える意味はない。真央の願いは大和に会うことなんだから。万が一大和に何かあったらそれこそ本末転倒」
 ある意味その答えは予想通りだった。俺は一つ小さく息を吐いた。
 「だから…お父さんがいないのか?」
 少しだけ咎めるような口調になってしまったことは否定しない。上野は少し俯き加減にこちらから視線を逸らし、梅田は深刻な表情になった。
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