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彼女は何も悪いことを言っているわけではないし、むしろ俺たちのことを思ってくれているということはヒシヒシと伝わってくる。
だけど、そんなこと認められるわけがなかった。
「そんなの…!上野の身にもし何かあったら…」
誰が誰を好きだとか、どんな未来を望んでいるかとか、そんなものは関係ない。
たとえ100パーセントではなかったとしても、万が一であったとしても、彼女に何か危険が及ぶかもしれないのであれば、絶対にその手段は選びたくない。
我を通す、ということを子どもの頃からほとんどしたことがなかった俺だったが、この意見だけは曲げたくなかった。だから、この時の自分の顔は結構険しいものになっていたと思う。上野はほとんど面持ちを変えなかったが、少しだけ後じさったようにも見えた。
そして、静寂が部屋の中を包む。
カチカチと壁掛け時計の針が進む音がただただ響き、呼吸の音でさえ際立って聞こえてきそうになる。だけど、気まずいとか雰囲気が悪いとか、そのような安直な言葉では今の心境は語り尽くすことはできなかった。
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