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「あのさ、あんたなんか履き違えてない?」
それは責め立てるような口調でも、諭すような口調でもなかった。ただ凜としたその佇まいに俺の目は自然と梅田の方に奪われていた。
「好きな人が幸せになってくれるのならって…それ、いいこと言ってるように見えてめちゃくちゃ身勝手なこと言ってるってわかってる?」
呆けたように、ただ口を開けたままの上野に梅田はズバッと思いをぶつけるように言葉を続ける。
「人を好きになるってことは自分も好きになることなんや。自分を大切にできひん人は他人のことは絶対に幸せにできん」
彼女の本意は分からないが、それは明らかに上野だけに向けられた言葉とは思えなかった。
自分を大切にできない人は他の人も幸せにできない。
どこかの啓発本に書いていそうな文言ではないか。本来ならそこまで心揺さぶられるものではないだろう。
でも、それは梅田の言葉だったから。
そこまで付き合いが長いわけでもないのに、彼女の言葉には関わってきた積み重ねによる重みみたいなものが感じられた。
「だからわたしは自分自身も幸せになって大和にも幸せになってほしい。あんたも本当はそうやないん?」
震えるような声で力強く言葉を紡いでいた梅田の口調が、ここでようやく柔和なものになった。
小さな我が子を諭すようなその口調に、嫌味なものは感じられなかった。それは受け取った当の上野も同じようで、その目は微かに潤んでいるように見えた。
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