第26章 幸せになってほしい

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あたりは真っ白な壁で覆われている。例の部屋はあの時以来なにも変わったところはないように見えた。 
真ん中には小さな椅子がいくつか置かれていて、それ以外は全てが真っ白である。相変わらず落ち着かない場所ではあるが、ここ以外で力の譲渡を行うのは危険だということらしかった。
 ちなみに前の世界で俺が上野に対して行った力の譲渡の際は、今回ほど大きな力ではなかったため、ここ以外で行っても問題はなかったらしい。しかし逆に言えば以前とは比べ物にならないくらい今回は大きな力が作用してくるということになる。今から行われることがどんなものなのかまったくもって想像がつかないけれど、考えると少しだけ緊張感が増したような気がした。
 部屋の真ん中に太郎の体をそっと置く。微かに意識はあるけれど、ほとんど眠ってしまっている状態だった。
 梅田も上野も先ほどはしんみりとしていたけれど、今度は少し顔に力がこもっているようだった。
 「で?力の譲渡ってどうするん?」
 やや緊張した面持ちで梅田が尋ねる。
 「簡単」
 上野は特に感情を込めることなく一言呟くと、指先を唇にそっと当てた。
 「わたしにキスしてもらったら、力の譲渡はそれで完了」
 「はいいいいいい!?」
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