第26章 幸せになってほしい

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狭い部屋ということも相まってか、俺たちの大声は部屋中に反響した。一方上野は、首を傾けて心底訝しんで見せた。
 「そんなに驚くこと?漫画とか小説じゃよく見る設定だと思うけど」
 いや、なんでそんなに冷静でいられるの?こちとらその単語を口にすることにも抵抗のある思春期だっていうのに。
 とりあえず一つ咳払い。しかし、もちろん気持ちが落ち着くことはなかった。
 「いや、おまキスって、それってつまり…」
 「唇と唇をくっつける…あれ?」
 「他に何がある?」
 上野が今度は反対側に首を傾けた。その恋愛上級者みたいな振る舞いに俺と梅田は顔を見合わせる。案の定梅田の顔はわかりやすく朱に染まっていた。
 「別に恥ずかしがる必要はない。こんなのはただの粘膜の交換だし。それに別に舌を入れろとかそんなことは言ってない」
 「そういう問題ちゃうやろ!」
 関西人らしいスピーディなツッコミが入る。が、上野からしたらもちろんボケているわけではないようで、その顔はひたすらに真顔だった。
 「でも、これしか力の譲渡の方法はない」
 「うっ…」
 この部屋において、イニシアチブを握るのが上野であることは誰しもがわかることだった。特に怒られたわけでもないのに梅田は首をすくめた。
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