第26章 幸せになってほしい

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上野は相変わらず平然とした顔で言葉を続ける。 
「二人が私にキスして一旦力を分けてもらう。そして最後に私の分を加えて太郎に手渡す。やったことないけれど、多分できると思う」
 不安要素がハンパない上に、ものすごく不明確で不明瞭な話だった。しかし、彼女がそう言うのなら、それしか方法はないような気がしてくる。ある意味完全に洗脳されているような気もする。
 梅田は上野と俺の顔を再度見比べた。そして「ううう」と数秒間悶えたのちに
 「ほんならせめて私からさせて!」
 顔をより一層紅潮させながらわめいた。それはどこかやけくそな感じにも見えた。
 「?よく分からないけど、順番はどちらでもいい」
 「なんでそんなに冷静やねん!!」
 梅田のそのツッコミはまったくもって俺もその通りだと思う。が、上野は動じない。いや、もしかしたら少しくらいは動揺していたのかもしれないけど、それを態度に出すことはなかった。
 そのあまりの飄々とした様子に対して梅田は今度は挙動不審な動きを取り始める。キョロキョロと辺りを見回したかと思うと、その場でくるくる歩き回った。
 そして、しばらくあわあわしてからなんとか自分の気持ちを落ち着かせたのか立ち止まりフゥッと深く大きな息を吐いた。
 梅田が上野の真正面に立つ。その顔にはまだ赤みが残っていたが、先ほどよりも凜としているように見えた。
 二人がジッと視線を合わせる。ピリッとした空気の中、やはり梅田の方は緊張を隠しきれないようだった。
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