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「振られました」
軽快なbgmが流れる中、目の前の男は俯き加減にテーブルに置かれているコーヒーの水面をじっと見つめていた。
「そうですか」
「いや、お前親友が振られたっていうのに反応それだけ?」
先ほどまでのメランコリックな様子から一転、テーブル越しに身を乗り出してきた親友の顔はやはりどこか落ち込んでいるようには見えたけれど、そこに哀愁は1ミリも感じられなかった。
いきつけのファミリーレストランは数年経っても内装は全く変わっていないが、目の前の男はここ数年で結構変わったように見えた。髪型もそうだけど、高校時代よりも幾分か落ち着いた大人の雰囲気を醸し出すようになったと思う。まあ、中身はほとんど変わっていないようにも見えるが。
「今回はどれだけ続いたんだよ」
「半年かな」
「せめて1年は持たせろよ。その度に呼び出されて失恋報告される方の身にもなってみろ」
俺の苦言はもちろん彼には届いていないと思う。もちろん俺も本気で怒って言っているわけでもない。もしも俺の言葉が少しでもこいつの心に届いているのならこの失恋報告会がここまで続いているはずはないからだ。
「ほら、俺って振り向かせるまでは一途だけど、振り向いた途端飽きちゃうからさ」
こんなことを何の悪びれもなく言ってのけるようなやつだけど、他でもこんなことを言っていないかどうか少しだけ心配になってしまう。
どんな奴にでもここまで付き合いが長くなってしまうと謎の親心みたいなものが芽生えてしまうらしい。
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