第27章 行かなきゃいけない

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自分でもどうかしていると思う。顔も知らない、ましてやいつ現れるのか、そもそも現れるかどうかすらわからない相手のことを一途に想い続けているだなんて。今、目の前で一緒にいてくれる女の子と結ばれることを選ぶのが普通のことだろうし、むしろ人道的とすら思える。 
「なに変な顔してるん?」
 日曜日の行きつけの喫茶店は、いつもよりも混んでいるように見える。だけど、この四年間この店が満席になったことを見たことがなかった。
 梅田と会う時は、大体ここに入って会話を楽しむことになっている。この店でないといけない明確な理由はない。何となくとしか言えない。
 そんないつもの場所、いつもの時間に梅田が珍しく訝しげな表情を浮かべたことに対し、俺は何故か苦笑した。
 「変な顔なんかしてたか?」
 「してたよ。いつにも増して」
 いつにも増してと言うその言葉に、特に何か思うことはない。彼女とは6年以上の付き合いになるし、それなりに濃く付き合ってきたのでいちいちそう言うことが気になったりはしない。
 「そんな顔で面接行くから落とされるんちゃう?もうちょっとこう、キリッとした顔できんの?」
 「生まれつきなんだよ、これは」
 嘆息しつつ答えると、それに答えるように梅田も深く息をついた。そして、頬杖をつきながら今度は俺の顔を覗き込んでくる。
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