1.愛なんて

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ただ振替店で客が怒るパターンは一つだけ、明らかに写真とは別人のブスが来た時だけだった。 よく雑多な居酒屋で聞く「こないだ風俗呼んだらさ〜すっごいデブな女がきて〜」という会話だ。あるあるだった。写真はえげつないほど加工をしている。 ただどんなに写真と違っていても、可愛いもしくは綺麗な容姿であれば「まぁいいか…」と許容するのだ。はたまた予想を上回るレベルの美女が来た日には、決まって「ラッキー」と心の中でガッツポーズを取るのだろう。 もちろん言い訳も用意していて、写真と髪の毛の長さが異なっても、「あの時は短くて…」もしくは「最近切ったんです」で乗り越えられる。出身地や方言の話になれば、「実は、生まれてからすぐに東京に来たのでよくわからないんです…」で押し切るのだ。 ──なんとも、嘘にまみれた世界だった。 どれだけお金を払っても、偽の皮を剥がすことなど誰にも許されなかったし、"本当の私"というものを誰にも晒すことも無かった。
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