プロローグ

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今ならわかる気がする。 『いろんな経験を重ねて、素敵な大人になってね』 ──素敵になんかならない。 『辛いことを沢山経験した人は、人に優しくできるんだよ』 ──そんなものは嘘っぱちだと。 素敵な人間になる前に、優しい人間になる前に、心がすさんでしまう。捻くれてしまう。余計な考えも感情も私を邪魔する。 世の中には見なくていいこと、知らなくていいことがある。 『あんたに私の気持ちなんてわかるはずがない』 そんな言葉さえも思いっきり跳ね返すほどに、「当たり前だよ」と、そう強く言ってしまえばよかったのだ。 誰かの痛みも、苦さも、わかってあげよう、わかってあげたいなんて思う必要なんてどこにも無い。わかるはずが無いんだ。 深く、深く心に刻んだ。 この痛みを忘れてはいけない。 忘れることなんて、私にはできなかった。
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