あの偽装結婚から始まった幸せ

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あの偽装結婚から始まった幸せ

「おい」 「んー…?」  寝ぼけた顔で、千里を見る。  おでこをはじかれて、目が覚めた。 「…何時?」 「四時」 「…どうして起きてるの?」 「おまえが耳元で寝言言うから」 「……」  あたしは、申し訳なさそうな顔で起き上がる。 「なんて言ってた?」 「いつか言うから許してーって」 「……」 「何の秘密があるんだ?」  千里が、あたしの肩を押し倒す。 「な…何もないわよ」 「じゃ、何だよ、あの寝言は」 「…夢見てたんだもん」 「何の」 「…懐かしい夢」 「懐かしい夢?」 「うん」 「何」 「千里が…ね。」 「俺が?」 「庭であたしを抱きしめて…『おまえがお嬢ちゃんで良かった。音楽やってる女は苦手だから』…って」 「……」  あたしの言葉に、千里はキョトンとしたあと。 「なんつー夢見てんだよ」  眠そうに目をこすった。 「見たものは仕方ないでしょ?」  目が覚めきってしまった。  もう、起きようかな。 「そういえば、この家に初めて来た時だっけな」  仰向けになった千里が、天井を見つめたまま言った。 「…うん。あたし、ビックリしちゃった」 「何」 「千里が、すごい名演技するから」 「名演技?」 「だって…」  あたしは、小さく笑いながら続ける。 「ナンパだとか、一目惚れだとか…それに、離れていたくないだなんて、そこまで言う必要があるのかなってヒヤヒヤしてたのよ」 「……」  あたしが笑ってると、千里はフッと優しい目になって。 「案外、本音だったりして」  って…あたしに覆い被さる。 「え?」  朝っぱらから、キス。  …そういえば、東さんが。 「家に行った時は、結構マジだったんだよ」  って、言ってくれたっけ。 「おまえだって、あの時はマジだったろ?」 「…どうして?」 「嬉しそーな顔してたぜ?」 「……」  千里の言葉に、黙ってしまった。  確かに…あの時は嬉しかった。  まだ千里に気持ちは持っていかれてなかったけど…あたしを迎えに来てくれた王子様…みたいな気はしてた。  …そんな事、恥ずかしくて言えないけど。  千里は、また寝転んで布団をかぶると。 「…色々あったけど、おまえと一緒んなって良かったよ」  少し早口で言った。 「…え…っ…」  あたしが感動してると、千里はあくび混じりの眠そうな声で…つぶやいた。 「今のは寝言だかんな」  9th 完
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