あの彼氏がうちに来るとか

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あの彼氏がうちに来るとか

「お父さん、今日…ね」  千里とつきあいはじめて(?)四ヶ月。  はたから見たら、恋人同士に見える…くらいには、なったと思う今日この頃。  とうとう、父さんに会わせる日がやってきた。 「何だ?」  彼とデートなんだけど、父さんの会社に近いところで待ち合わせなの。  食事でも一緒にしない?  …って、言わなきゃいけないんだけど… 「どうした?具合いでも悪いのか?」  父さんが、書類をカバンに詰めながら言った。 「うっ…ううん、あの…今日、ね」 「今日、どうした?」 「デート…なの」 「…デート?」 「…うん」  父さんを上目使いで見てると。 「彼氏ができたか…」  って、少し暗い声。 「同じ学校の子かい?」 「…ううん、社会人」 「どこで知り合ったんだ?」  少し、意外そう。 「まあ…街で…」 「そうか…」  父さん、黙ってしまった。  続きを言わなきゃ。 「そ…それでね、今日…」 「じゃあ、今日、彼氏をうちに呼びなさい」 「え?」  あたし、固まる。 「父さんも早く帰るから、みんなで食事をしよう。おばあさんには、父さんが言っておくよ」 「そ、そうじゃなくて…父さん?」 「知花もそんな年頃か…おっと、こんな時間だ。じゃ、彼氏によろしくな」 「あ、あー…うん…」  父さんはそう言うと、ネクタイを持ったまま下に下りていった。  …何だか、言うに言えなくなってしまった。  頭の中では大変だって思ってるのに、なんとなく…冷静。  あ、千里に電話しなきゃ。  父さんの部屋の電話で千里の家に電話すると。 『神でございます』  執事の篠田さんの声。 「あ…おはようございます。桐生院知花です。」  ついフルネームで言ってしまって、自分で苦笑いする。 『あ、おはようございます』 「早くからすみません。千里…さん、起きてらっしゃいますか?」 『はい、お待ちください』  篠田さんの明るい声にホッとしてると… 『………はい』  唐突に、不機嫌そうな声が耳に飛び込んだ。 「あ、ごめん…寝てた?」 『…なんだ、おまえか』  うわあー…本当に機嫌悪そう… 「あの、今日のことなんだけど…」 『ああ、ちゃんと言ったか?』  タバコに、火をつける音。 「それがー…うちに来てもらえって…」 『……』  千里が黙ってしまった。  怒ったかな…  あたしも、何も言えなくて黙ったまま受話器を握ってると。 『何時?』  煙を吐き出しながらの声。 「え?」 『何時に行けばいいんだ?』 「じゃ…七時ぐらい…」 『わかった。じゃ、今日は外で会うのはやめよう。家にいろよ』 「…いいの?」 『何が』 「うちに…来ること」 『予定が早まっただけだ。別にいいさ。じゃ、俺はもう一眠りする』 「あ、おやすみなさい…」  受話器をそっと置くと、ホッとしたようなー…そうでないような…  …予定が早まっただけ…か。  なんとなく、嬉しい……  ……はっ。  何で?  何で嬉しいの?  あたしが頭をぶんぶん振ってると。 「…何してんの?姉さん」  あたしを呼びに来たらしい(ちかし)が、怪訝そうな顔して廊下に立ってた。
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