あの彼が有名人とか

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「気を付けて」  千里との食事が、何とか…無事終了した。  全員が千里を見送ろうと、気が付いたら玄関口で整列してる。 「ありがとうございます。それじゃ、失礼します」  千里は、満面の笑みでお辞儀。 「あ…あたし、そこまで送ってくる」  何となく、このまま玄関の戸を閉めてしまうのが怖くて。  あたしは千里に続いて庭に出た。  結局…  父さんは結婚を許すとは言わなかったけど、それでもご機嫌な様子で千里としゃべってた。 「神さん!!また来てね!!」  誓と麗が大きく手を振って、千里がそれに応える。  …嬉しいな。  今日は…千里のおかげで、色んな喜びを味わえた気がする。 「あー、緊張した」  門に続く階段を歩きながら、千里が首を回しながら言った。 「緊張してたの?あれで?」 「してたさ。思った以上にでっけぇ屋敷だし」 「…まだ、言わなかったんじゃなかったの?」  あたしが上目使いで千里を見ると。 「あー…なんか雰囲気よかったし、いっかなって思って」  なんだか、能天気。  でも、そんなところにも…少し笑えてしまった。 「…ところで、親父さん、どこからか見てるかな」  さりげなく家を振り返る千里。 「父さんだけじゃないわ。きっと、みんな広縁から見てるわよ」  あたしは、首をすくめる。 「そっか」 「…え?」  え?って思った時には、すでに千里の腕の中だった。 「ちょっちょっと!!見られてるってば!!」  まさしく、広縁に人影。 「わかってるさ」 「だったら、離してよ!!」 「ばか、見せつけてんだから、暴れるな」 「み…見せつけ…?」  …とりあえず、暴れるのを辞める。 「ま、もうすぐあのマンションも俺らのもんだな」  耳元で、千里の声。 「…そんなにうまくいくのかな」 「いくさ」  なんの根拠があって…  でも、なんだか千里の言葉は力強い。 「ほんっと、おまえがお嬢ちゃん学生でよかった」 「え?」 「言ったろ?音楽やってる女って苦手だって」 「……」  ギク。  とんでもないことを忘れてしまってたような気がする。  確かにあたしは千里に『誰にも言ってない秘密』を告白したけど。 『家族にも言ってない秘密』っていうのもあるのよ。  それを告白する日が来るのかな…。 「今日は焼きプリンがなかった」  千里がすねたような口調で言って、思わず吹き出す。 「子供みたいなこと言うのね」 「るせっ」  あたしは笑いながら、千里の胸に顔を埋めて。  もしかして…これって、幸せっていうものなのかな…なんて…  少しだけ、目を閉じたのよ…。
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