あのおじいさまのお屋敷で

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「ごちそうさまでした」  おじい様が手を合わせて下さった。  その光景を見て、やっと…ホッと胸をなでおろす。  千里からリクエストのあった、サバの味噌煮と肉じゃが。  その他に…野菜たっぷりのお味噌汁と、色んな野菜の煮びたしも作った。  …あ、デザートも。 「…思ったより、やるじゃん」  千里が、意外そうな顔でそう言った。  好き嫌いの多い千里も、今日は…頑張ってくれたのか、どれも美味しそうに食べてくれた。 「知花さん、ついでにお願いが」  おじい様にそう言われて背筋を伸ばすと。 「玄関に華を生けてもらいたい」 「………はい?」  華を、生ける? 「確か、趣味だっつってたよな?」  千里はニヤニヤ顔。  確かに、あたしは華を生けるのが趣味…なんて言ったけど。  華道の家に生まれながら、誰に習ったでもない…自己流なのよ~!! 「あ、あの、玄関だなんて、そんな立派なところに…」  あたしが恐る恐る答えると。 「どんな生け方でも華でもいい。あなたの好きなように生けてください」  おじい様は、それだけ言うと席を立たれた。  あたしは、しばらく呆然として。 「…どうしよう…」  千里に、つぶやく。 「俺も見たい」  あたしの心労をよそに、千里は笑顔。 「だって、ほら…花屋さん、閉まってるんじゃない?」  断る理由が出来た!!と思って言ってみたものの… 「この裏にある花屋、結構遅くまでやってるぜ?選ぶのついてってやるよ」  千里は、あたしの腕を持って立ち上がった。  …機嫌、いいのかな。  千里がそんな様子だから、あたしもつい…何生けようかな…なんて。 「おまえ…あの大量の玉ねぎ、何に使った?」  外に出ると、千里が嫌な事を思い出した風に言った。 「…玉ねぎ、嫌いなんだってね」  あたしは、意味深な笑顔。  篠田さんに、たくさん聞いてしまった。  玉ねぎだけじゃない。  ピーマンも、アスパラも、もやしにレンコン、牛乳にチーズ。  おまけに、食べれる果物はミカンだけ。  食べれる魚はサバだけだし、お肉も牛肉以外は食べれない。  まだ他にもたくさん嫌いなものが…。  食べれる物を数えた方が、早いくらい。 「篠田に、何聞いたんだよ」 「千里の嫌いなもの」 「ふん、どうせ子供みたいだとかって笑ったんだろ」 「でも、全部食べてたじゃない」 「あ?」  千里は、あたしの顔を見る。 「どれが一番美味しかった?」  あたしも、千里を見る。 「……」  千里はしばらく考えて。 「一番とか、二番とかそういうのは決められねーけど…」 「……」 「焼きプリンは、格別に美味かった」  ますます、子供みたいと思ってしまった。 「あの中にはね」  あたしは、小さく笑いながら…告白する。 「千里の嫌いなものが、たくさん入ってた」 「…何だよ」 「卵とチーズとリンゴとハチミツ」 「……」 「篠田さんも心配してたよ?ボーカリストなのに、健康管理悪いって」 「……」  千里はしばらく無言で目を細めてたけど。 「おまえが嫁に来てくれたら、何でも食えるようになるかもな」  そう言って…  あたしの肩を抱き寄せたのよ…。
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