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針金の様な雨が静かな音を立てて地面に突き刺さっていた。
「…一度……喰ってみたかったな……」
裏路地のごみ捨て場で、乾いた声が雨雲に溶けて消える。
薄れゆく意識の中で、あの顔だけがいつまでも消えずに灼き付いていた。
一匹狼には友達がいない。当たり前だが、だから一匹狼と呼ぶのだ。
気まぐれに夜道で兎を襲い、昼寝をして、狐のバーで酒を飲む。
何不自由ない孤独は男にとってむしろステータスですらあった。
「…よくいるよね。それをカリスマだと勘違いしてる奴って」
いつものバーで見慣れない客がマスターの狐と話していた。
「まぁ、動物にはそれぞれ生き様ってものがあるからねぇ…」
呆れた風でも共感した風でもなく、狐はただただグラスを磨き続ける。
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