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無表情にこちらを見つめている羊の眼を見返しながら、狼は淡々と訊いた。
「……で、ホントのとこは?」
「…水商売だよ。この街には法がないから水商売はいくらでも稼げてありがたいけど、その分荒っぽい客が多くて嫌になる。そろそろいい加減、腹に岩でも詰められて海に沈められそうだ」
初めて愚痴っぽいことを口にした羊に少し機嫌がよくなった狼が、羊の背後から片腕を回して訊いた。
「だったら俺と強盗するか? お前となら組むのも悪くない」
「やだね。どう考えても稼ぎが減る」
「お前なんでそんなに金が要るんだよ? 借金でもあんのか?」
「ん、俺のじゃなくて親のだけど」
「…………マジ?」
なんという定番の流れなのか。あまりに型通りの展開に狼が言葉を失っていると、羊は人の悪い顔で噴き出した。
「…てのも全部嘘だけどな」
「またかよッ!!! この嘘つき羊が…ッ」
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