羊の狼

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 楽しそうに笑いながら羊が玄関から出て行く寸前。  狼が背後から呼び止めた。 「なぁ。……今夜はバーに行かずにまっすぐ帰って来いよ。たまには俺が夕飯作って待っててやっから」  振り返って初めて驚いたような顔を見せてから、羊が笑う。  初めて笑った顔を見たような気がした。 「ああ。肉料理以外で頼むよ」  ドアの向こうの真っ白な朝日の光を背景に、逆光の中、羊が軽く片手を上げて出て行く。  ゆっくりと閉まっていく扉から差し込む光がどんどん細くなって、やがて錆びた音を立ててドアが閉まると、再び部屋は闇に沈んだ。 End
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