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それ以来、狼は狩りができなくなった。正確には、喰っても味がしないのだ。
「でさ、俺が手作りして持ってった木の実のパイを美味しいって喜んで食べてくれるんだ。もう可愛いのなんのって」
上機嫌で話す羊に、狐のマスターがいつもの無表情のまま返す。
「羊さんは本当に草食系だからねぇ…。きっとその恋人もそういう優しいところに惚れたんじゃない?」
あはははは。そーかなー? 羊の楽しそうな笑い声が、いつものカウンターの一番奥の席にいる狼に突き刺さる。
冗談ではなかった。一体あいつのどこが草食系だ。誰が恋人だ。
しかもパイは無理やり押し付けられて挑発された挙句に引くに引けなくなって仕方なく喰わされたのだ。
…美味しかったことは否定しないが。
このままでは他のものが食べられなくなってしまう。
しかし、もはやあのメリノー種の悪魔を食べる気にはなれなかった。
理由はもちろん恋人だからではない。
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