羊の狼

9/12
前へ
/12ページ
次へ
 羊はいつも、狼が起きる前には勝手に起きていなくなる。どこから察知するのか狼が行きつけの狐のバーに行くと必ず先に来ていて、家に帰ると夕飯とともに待っている。  ……もはやストーカーの域だ。 「テメェのパイはもう喰い飽きた」  不貞腐れた顔で狼がそっぽ向くと、正面に回った羊が嫌な笑顔で待ち構えていた。 「だから毎日味変えてやってんだよ。ほら、あーん」 「あーんじゃねぇッ!! 自分で喰えるわッ!!」  結局パクパクと自分から食べ始めた狼を羊が生暖かい目で見守る。 「……よく食べるねぇ」 「んだよ。食えっつったのお前だろうが」 「で? 俺のことはいつになったら食べてくれるわけ?」  思いっきりむせて咳込んでいる狼に羊が笑う。  いつの間にか、それが当たり前の日常になっていた。  といっても、深い話をする仲になったわけでもない。  喰って、喰われて、たまにバーへ行って呑む。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加