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羊はいつも、狼が起きる前には勝手に起きていなくなる。どこから察知するのか狼が行きつけの狐のバーに行くと必ず先に来ていて、家に帰ると夕飯とともに待っている。
……もはやストーカーの域だ。
「テメェのパイはもう喰い飽きた」
不貞腐れた顔で狼がそっぽ向くと、正面に回った羊が嫌な笑顔で待ち構えていた。
「だから毎日味変えてやってんだよ。ほら、あーん」
「あーんじゃねぇッ!! 自分で喰えるわッ!!」
結局パクパクと自分から食べ始めた狼を羊が生暖かい目で見守る。
「……よく食べるねぇ」
「んだよ。食えっつったのお前だろうが」
「で? 俺のことはいつになったら食べてくれるわけ?」
思いっきりむせて咳込んでいる狼に羊が笑う。
いつの間にか、それが当たり前の日常になっていた。
といっても、深い話をする仲になったわけでもない。
喰って、喰われて、たまにバーへ行って呑む。
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