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戦争というのはどちらかが勝ち、どちらかが負けることでしか決着することはない。
曲がりなりにも、一角の将だったワタシには敗者としての責任があった。
神と、そして人の混血だった英雄は新たな時代を作るために神々に戦いを挑んだ。神々と、人の間には決して埋められない隔たりがあった。
——はずだった。
大半の神々はその後集合的無意識として霧散していった。
ワタシもそうなるはずだったが、どうもあの英雄はワタシに対する思い込みが強いらしい。大人しく消え去ることも許してくれないとは、全く誰に似たのやら。
あの英雄の顔を思い出す。
勝てないはずだ、私たちでは。長く続いた神代の時代も、いずれ終わりが来るとワタシは思っていたし、確信していた。今こうして、水槽の中で揺蕩っていると自身の勘というのもなかなかのものだと思う。
今のワタシは、抜け殻だ。神の権能も、力も全て失った。ただ、ガワとしてだけの神の姿を持っているに過ぎなかった。
戦争からどれだけの日々が過ぎ去ったのかは分からないが、ワタシがまだ霧散していないということはあの英雄もまだ生きているのだろう。世界に対する名残惜しさなど微塵もないが、思うようにいかないものだ。
そんなある日、水槽の前に人の子供の姿があった。
「……どうした、何か用か」
「!!」
人の子供は目を丸くして驚いていた。ワタシも久しぶりに口を開いたが、こんなに驚かれるとは思わなかった。人の子供は驚いていたようだが、辛気臭い顔をしたままワタシの顔を見ていた。
「貴方が、全能神ですか」
「あぁ、昔は——そう呼ばれていたよ。昔の話だ」
「なら……僕の願いを、聞いて欲しい」
ワタシは困惑する。何せガワだけだ、全能神だった頃の力など今はない……いや、待てよ。
人の子供は少し逡巡したようだったが、意を決して口を開いた。その言葉に、ワタシは久しく忘れていた感情を抱いた。分かりやすく言うなれば、ワタシはきっと笑っていただろうから。
「英雄を、殺したい」
時代は変わる、それは良くも悪くも光と闇を伴って。これは神殺しの英雄を堕とす、英雄殺しと神の成れの果ての物語。
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