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――残り、三か月。
惠山誠が引っ越してきた部屋は、高台にあるワンルームマンションの一室だ。賃貸物件、月々の家賃は五万円。築三十年以上、駅からは少しだけ距離があるが、十七階からの見晴らしはよく、高台の下に広がるニュータウンの夜景が美しい。部屋の広さは九帖、建物が古いせいかキッチンからやや異臭を感じるが、クローゼットキッチンなので扉を閉めれば気にならなくなる。
角部屋のこの部屋は、南西と北東に大きな窓がついていて、周りに遮蔽物となる建物がない割には部屋内部がちょっと薄暗い。湿気も強いようで、北東の窓の下にべったりと黒カビが生えていた。その絶妙な形は、まるで苦しみ呻く人の顔のようである。北東の窓を開けてやれば、三月だというのに生ぬるい風が室内に入ってきて、満ちた。
この部屋で一番助かるのは、家具家電が一通り揃っていることだろう。
テレビ、冷蔵庫、レンジ、炊飯器、洗濯機、ベッドに本棚、机。前の入居者の残していったものだが、二十代の単身者が暮らす上では実にありがたい。
「ちょっと間だけ、よろしくお願いします」
今日から数か月、誠はこの部屋で生活するのである
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