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――残り六十一日。
休暇の昼時。机に座ってパソコンと向き合い、在宅仕事に勤しんでいたら、机の向こう側から三歳ぐらいの子供がこちらを覗き込んでいた。小さな頭を傾げて、まじまじと誠の手元を見つめている。くりくりとした目とおさげの髪形がかわいらしい女の子だ。傾げられた首は九十度以上曲がっていて、曲がった場所からは白い骨のようなものが覗いている。誠はそのまま仕事を続けたが、女の子の方は見るだけに飽きてきたらしく、机の上をその小さな手でぱったんぱったん叩き始めた。これでは仕事がはかどらない。
仕方がないな、とベッドの上に置いていたカバンから、口寂しいとき用に買ってある飴玉を一つ取り出した。女の子に渡してやると、女の子は首を傾げたまま、花のような笑顔で口の中に飴玉を放り込んだ。それで静かになるかと思えば、一時間もたたないうちに、また両手で机をぱったん、ぱったん。
「きりがないなぁ」
カバンから新たに飴玉を取り出して、そうしてふと、目の前の北東の窓を見る。あの窓は、昼も夜も、常に開けっ放しにしてあるのだ。
ちょっとした好奇心と、悪戯心から、誠は女の子の前に飴玉を振って見せると、ぽぉい、と窓の向こうに投げて見せた。
女の子はそれを見送ってから、再度誠の方に向きなおった。唇の両端を耳の傍まで持ち上げて、にたぁっと笑う。
けたけた、けたけた、気味の悪い笑い声がその唇から漏れ出た。女の子は、こちらに首を向けたまま、まるで蛙のように両手両足を伸ばして窓の方へ、その向こうへと飛び出していく。そうして飴玉を追って、階下へと落ちていった。
その時は、さすがにやばいことをしたかと思ったのだ。しかし、翌日から北東の窓枠にずらりと無数の子供の手が並んで、ぱったんぱったん叩きだしたので、以降窓際には飴玉を並べるようにしてある。
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