18人が本棚に入れています
本棚に追加
突然、空が温かな橙色から真っ赤な血の色に変わったのである!
それはまるで、赤々と燃え盛る炎の舌と毒々しい血液が、青黒いフィヨルドとエーケベルグの町並みを覆い尽くすかのようである。
もちろん、それは私の心の中に現れた変化であり、実際に起こった自然の現象ではなかったのであろう。
それでも、私はその現象に思わず立ち止まり、ひどく強い疲れを感じて歩道の柵に寄りかかった。
その幻視の見えていない友人は何も知らずになおも歩き続けたが、私はそこに立ち尽くしたまま、言い知れぬ不安に震え、漠然とした恐怖に慄いた。
そして、その瞬間、私は自然を貫く果てしない叫びを聴いたのである!
なんという叫び声であろう……鼓膜を劈くように大きく、いつ終わるともしれぬ不気味な叫び……それはあの時見た父の姿にも似た狂気……まさに狂気である!
「アアアアアアアアアアアアーっ!」
その頭がおかしくなるような絶叫に私は両の手で耳を抑え、私自身も堪らずに悲鳴をあげた。
頬に添えられた両手と、丸く落ち窪んだ目に大きく開いた口……今の私の姿は、かつてパリの人類史博物館で見たペルーの木乃伊そっくりなものに違いない。
と、そんな私の方を振り返った前を行く友人達が、眉間に深い皺を刻むと声を揃えて言った……。
「うるさい!」
(オスロの湾岸で世界が叫ぶ 了)
最初のコメントを投稿しよう!