風鈴

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 私は、風が吹けば歌を歌うことができます。人間からすれば綺麗な音らしいです。人間は私たちのことを「風鈴」と呼んでいました。私を作った職人さんは私を気に入っていないみたいでした。しばらく私の歌声を聴くと  「こいつは欠陥品だな」 と言い放ちました。ケッカンヒンの意味はわかりませんでしたが職人さんの苛立っているような声色からあまりいい意味ではないだろうということは容易に想像できました。職人さんは私を乱雑に箱に詰めました。このまま捨てられるかも、もう歌うことはできないかもしれないと思うと誰もいない森に置いていかれたような寂しい気持ちになりました。暗くて狭い箱の中でしばらく過ごしてもう考えることもやめようとしていたところで眩しい光が射しました。ふたが開いたのです。そこには二人の男がいました。一人は職人さんです。そしてもう一人は職人さんと比べて随分若い男の人でした。目に包帯を巻いています。職人さんはあちこちにマメのできた皮の厚い手で私をわしづかみにしました。そのまま隣にいた男の人の手をとってそっと触れさせました。その人の手は白くて綺麗な手でした。うっすらと油のような匂いがしました。私の形を確かめるように何度か指がなぞりました。あまりに優しく触るので少しくすぐったかったです。  それから私はその人に引き取られました。部屋の東にある窓際に飾られました。晴れている昼は窓が開けられていつも歌を歌わせてくれました。彼は目が見えないようです。お手伝いのお婆さんがいて家事などは主に彼女がやっていました。彼は目が見えないのですがいつも絵を描いていました。感触や匂いでどの色かわかるらしいのです。私は彼の絵をいつも歌いながら眺めていました。彼は私の歌声を聞くと少しだけ微笑んでくれました。  「君はとても綺麗な音だね。僕は君の音が好きなんだ」  彼は優しい声でそう言ってくれました。照れ臭かったけれど嬉しくてその日はいつも以上に頑張って歌いました。  私は窓際から見える景色しか知らないけれど飽きることはありませんでした。彼がさまざまな絵を描いてくれたからです。彼が筆を振るえばさまざまな色が白の中に浮かび上がります。その景色は毎日変わっていって私を楽しませていました。
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