70人が本棚に入れています
本棚に追加
数時間後。
リビングには早速二つの大きいゴミ袋が埋まっていた。中には今までためておいたペットボトルや、お弁当のプラスティック容器、その他ゴミがいっぱい入っていた。
「本日はトライアルなので、明らかに『ものとしての寿命がなくなった物だけ』を処分しました。本来ならもう少しクローゼットや本棚も片付けしたいところですが…」
「いや、もう疲れました。十分です。」
「この本の山は…捨てますか?」
「あ、それは読み終わったのでこのまま捨てます。」
「そうですか、なら…。」
今瀬さんは紐で結んである本たばを彩響の前まで持ってきた。そしてなんと、彩響の手を握り、そのまま本の上に乗せる。意味が分からずじっと見ていると、彼がにっこりと笑った。
「今までお世話になった本たちに別れの挨拶をしましょう。」
「あ、挨拶…?」
「そうです。『面白い内容を知らせてくれてありがとう』と言いましょう。きっと本たちも喜びます。」
彩響は訳がわからないまま、しぶしぶそのままお別れの挨拶を言い渡した。
「た、楽しくさせてくれて…ありが…とう…?」
「とても素晴らしいです。これできっと本たちもいい旅に出られるでしょう。」
なにこれ、なにかの宗教?なんの儀式?混乱している間、今瀬さんはゴミ袋を全部持って玄関へ出た。さっきまでは気付いてなかったが、ゴミが消えるだけでリビングがいきなり広くなった。さっきの大量の本束も一緒に消え、さらに空間が広くなったのを感じた。
「あ…これが『片付け』?」
「そうです、必要なものだけを残して、自分の人生を幸せにするのが本当の『片付け』です。これからもっと幸せになりたいなら、ぜひ俺を呼んでください。…では。」
爽やかな笑顔を残して、彼は去っていった。
「幸せ…?」
『幸せ』なんて、家政夫が普通口にする言葉なのか?考えながらリビングに戻った彩響は、すっきりした風景を見ながらつぶやいた。
「結局、最後の最後まで凡人ではなかったね…」
掃除するヤンキー、洗濯する変態、料理するガキ、そして片づけする信者まで。
やはり彼らは予想以上に個性の強い、『オスの家政夫』たちだった。
最初のコメントを投稿しよう!