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出てきたのは50代くらいの中年男子だった。彼はとてもジェントルな振る舞いで、彩響を中へと案内する。会社の社長としては結構若い方…?と思う以前に、彩響は彼の服装を見てとても驚いてしまった。
(ピンクのコート…?なに、一種のユーモア?名前と服装合わせているの?なにこの会社、実は社長が一番変人だったの…?)
独特な雰囲気に圧倒され、彩響は出されたお茶の存在も忘れ、しばらくその場でぼうっとしていた。Mr. Pinkがにっこりと笑ってこっちを見てくる。
「ハニー、君が我が社の家政夫たちを気に入ってくれたようでとても嬉しいよ。どうだったのかな、彼らの仕事ぶりは。」
「あ、はい…とても丁寧で、よかったです。皆多少は変わり者だとは思いましたが…」
「社長のあなたも相当な変わり者ですね」、とは言えず、彩響は言葉を飲み込んだ。Mr. Pinkは彩響の言葉ががとても気に入ったように微笑んだ。
「『働く女性を笑顔に』。これが我が社のモットーでね。ここの家政夫たちはみなそのため一生懸命仕事をしている、しっかりものばかりだよ。いつでも安心して家事を任せられるよう、会社からも努力するので…これからもぜひよろしくお願いします。」
「あ、こちらこそ…よろしくお願いします。」
今まであった男たちはすべて『自分を笑顔にしてくれ』と求めるばかりで、誰も『君を笑顔にしてあげる』とは言ってこなかった。だからこそMr. Pinkの今の発言は、どこか遠い世界のもののように聞こえる。慣れない服装と慣れない言葉まで、なにもかもが現実離れしているように思えた。
(やはり、ここの男たちはみな変わっている…)
「そして、相談してくれた長期契約の件だが…ハニーは『入居家政夫』には興味あるかな?」
「入居…ですか?」
「そう。言葉通り、家政夫がクライアントの家に入り、そこで寝泊りをしながらより細やかな家事代行を引き受ける。値段的にもよりリーズナブルなシステムだが。いかがかな?」
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