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聞き馴染んだエンジン音と、今流行りのJ-popが流れる車内。無心で眺める窓の外では風景が次々に流れて行く。
そんな景色の走る速さに俺は思わず溜息を吐いた。
「ごめんな栄人‥‥。また父さんの仕事のせいで‥‥」
運転をする父が前を見つめたまま、申し訳なさそうに言ったのが何となく意外だった。
俺の溜息が聞こえて気を遣わせてしまったのなら申し訳が無い。
こちらもそんなつもりで溜息が出た訳では無く、本当にただ無意識だっただけなのだが。
「別にいいよ。仕事なら仕方ないし」
子供ながらに父親の苦労を分かった気にはなれないが、引っ越しがめんどくさいのはきっと親も一緒だろう。
「でも懐かしいじゃない。ほら見て、あの頃と何も変わってないわ」
そんな父親と俺を尻目に、母親は外の景色を見て騒いでいる。同じ景色でも俺とはどうやら見え方が違うらしい。
高速道路を抜け、バイパス道路を田舎の方へ走り抜けて行く。
ーー言われてみると確かに何も変わっていない。比較的新し目の国道も、その脇にあるコンビニだって。
俺は頬杖をついている左の手とは、逆の手の指で数えた。
そうだな、たった3年だもんな。
「栄人が行く高校には中学の頃のお友達は居るの?」
「んー、知らない」
俺はこの埼玉県の田舎から、中学3年に上がる直前に九州へと引っ越した。
それが何故か今度は、再びこの埼玉県の土地に引っ越しという事になってしまった。
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