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正直、九州の学校での友達と別れてこっちに戻ってくるのは嫌だったが、仕事なら仕方がない。
両親には心配をかけるまいと、仕草や表情に出すことはなかったが、まぁ気づかれているだろう。
「よーし、着いたぞー!このマンションだ!」
車を止め、外に出る。俺の知っている田舎町の風景とは掛け離れているほどの高さのマンション。
「‥‥こんなマンションあったっけ?」
「いや、どうやら建ったばかりのようだぞ」
父親は鼻歌を歌いながらエントランスに荷物を運んで行く。他の荷物は予め引っ越し業者に頼んであったので、今はこれだけ。
両親の上機嫌っぷりを見ると、やはりこの引っ越しは嬉しかったのだろうと思う。
まぁ都心に近いと言うのは良いことなのだろう。エレベーターに乗り込み、母親がボタンを押す。
‥‥10階。我々、春沢一家はこのマンションの最上階の部屋で暮らす訳だ。
駅はまぁまぁの近さで眺めもいい。近くにはスーパーやファミレス、必要なものに困る事は無い。
「やっぱりいいなぁ、この部屋は」
楽しそうに夫婦で騒ぐ2人をよそに、俺は自分の部屋へ向かう。なんとも言えない新築の香り、床も壁もピカピカだ。
積まれた段ボール箱の所為でまるで迷路のようだ。見ているだけで嫌気が指してくる。
「栄人ー!疲れてると思うけど、寝る場所くらいは作っときなさいよ!」
「うぃー」
程よい大きさと高さの段ボールを並べ、その上に布団を敷く。
「どれどれ‥‥うん。中々の寝心地だな」
とりあえず今日はこれで良いか、組み立て式のベッドもあるけどそれはまた時間があるときで。
台所からは母親が上機嫌でまな板を叩く音が聞こえてくる。その音はまるで何かの楽器を演奏してるようだった。
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