雨ざらしの幽霊

1/6
前へ
/69ページ
次へ

雨ざらしの幽霊

 奇妙なものを見た。  電車の中で私は、先ほど見たものについて考えていた。  今は6月、梅雨真っ盛りで、ここ数日晴れ間も見えないほどの土砂降りだった。大学を休学中の私は、生活費を稼ぐために毎日電車で隣町へ行き、居酒屋のホールでアルバイトをしている。今日も今日とて傘を差さずにはいられないほどひどい雨で、駅に向かうまでに靴下までびちゃびちゃになっていた。そんな中、傘も差さずに1人立ち尽くす青年の姿があった。目は虚ろで、顔色は悪い。今にも滲んで消えてしまいそうなその姿は、確かにそこに立っていた。 「私の見間違いかな…」  そうであってほしいと願うのには理由があった。小さい頃から私は霊視が出来た。簡単に言うと、幽霊が見えたのだ。ただ、霊視が出来て良い思いをした試しがない。寧ろ嫌なことばかりだ。ただ、歳を取るにつれ、その力は失くなっていき、ここ数年幽霊なんてものを見たためしがない。そのことには満足していたのだが。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加