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ただ、何よりも気がかりだったのは、その姿だった。そのときは電車に乗り遅れまいと早足で駅へ向かっていたので、一瞬、ほんの数秒しかその姿を確認できなかったのだが、鮮明に記憶に焼き付いてしまうほど、その出で立ちは哀しかった。
「ちょっとー!ゆりちゃん5分遅刻だよー!」
バイト先の店長は時間に厳しい初老のおじさんだ。なんだ、いいじゃないか5分くらい。
「すいません、雨がひどかったもんで」
私も苦し紛れの言い訳をかまして、ホール作業に取りかかる。予約の確認をして、空席の確認、あとは掃除をしつつ来客を待つ。今日は予約が1組で、平日らしい賑わいだった。つまりは素寒貧。予約の客2名1組と新規の客4名2組、それだけだった。頼まれた品をテーブルに運ぶ。要望があれば可能な限り応える。レジ打ちもする。当然片付けもして、客が全員帰ったあとにはフロア全体の掃除。賄いを食べる頃には夜の12時。私は毎日これを繰り返して、日々をすり減らしていた。
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