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プロローグ
「本当に…来ちゃった…。」
一人の少女は呟くように言った。
━━少女といってもそこまで幼くはない。
彼女は16歳で、高校2年生である。
ここは栃木県宇都宮市。
宇都宮駅の改札を出た所。
ある理由があって、その少女━━鈴本悠理(すずもと・ゆり)は宇都宮駅に来ていた。
2018年6月の事である。
━━鈴本悠理、16歳。
肩までの黒髪のショートがよく似合っている、身長163cmのスラッとした美少女だ。
アメリカのカリフォルニア州で生まれて、2歳頃までアメリカに住んでいた。
一度日本に戻ったが、両親の仕事の関係でまた、小学2年生から5年生までアメリカに住んでいたので英語はペラペラだ。
━━悠理は、宇都宮駅を出て西口広場へと向かった。
西口広場には、車で送り迎え出来るような車寄せのスペースがある。
そこで、悠理はしばらく待っていた。
《プップー!!》
突然、クラクションが鳴ったので、悠理は音のした方を見た。
パールホワイトのプジョー308CCが止まっていた。
左側のドアが開いて、中から女性が降りて来た。
「悠理ちゃん、こっちだよ。」
と降りて来た女性、菅井綾乃(すがい・あやの)は笑顔で声を掛けた。
━━菅井綾乃、22歳。
肩よりも長めの茶髪のストレートが似合う美女で、職業はエステティシャンをしている。
身長は161cm。悠理の従姉妹だ。
「綾乃ちゃん。」
と、悠理は綾乃の方へと向かって歩いた。
「いらっしゃい。」
綾乃は悠理に言った。
「お願い…します…。」
悠理は頭を下げた。
そして二人は車に乗り込んだ。
車は走り出した。
2012年式のプジョー308CC。
6速ATの左ハンドル。
今はルーフを閉じているが、オープンにも出来るクーペカブリオレだ。
エンジンは1600ccとそこまで大きくはないが、横幅が1820mmと広めなので、ゆったりと座れる。
左ハンドルなので、助手席は当然右側だ。
アメリカに住んでいた時は車の右側に乗った事もあるが、日本に戻って来て久し振りに右側に乗った悠理は、何だか落ち着かない様子。
「エステティシャンって、そんなにお給料良いの?」
と、悠理は訊いた。
悠理は別に車に詳しい訳ではないが、この車が高そうなのは、何となく分かる。
「ううん、そんなに良くはないよ。
月給24万くらいだよ。」
綾乃は運転しているので、視線は前を見たままで、
「これ、中古車屋で見付けたの。
一目惚れしてローンで買っちゃった。」
と悪戯っぽく笑った。
━━10分くらい走っただろうか?
車は、あるアパートの駐車場に停った。
「悠理ちゃん、着いたわよ。」
綾乃が声を掛けた。
「…うん。」
悠理は、小さく頷いた。
三階建ての鉄筋のアパートで、
《Cinq Etoiles(サンクエトワール)》と書かれていた。
「ここの三階だよ。」
と、綾乃が言った。
二人はエレベーターで三階へと上がった。
三階の《302号室》が綾乃の部屋のようだ。
綾乃が部屋の鍵を開ける。
「どうぞ。」
と綾乃は、悠理を招き入れた。
「お邪魔…します。」
悠理は中に入った。
「玄関のすぐ横の洋室を使っていいからね。」
と、綾乃が声を掛けた。
「ありがとう。」
悠理は頭を下げた。
悠理は、その部屋のドアを開けてみた。
━━八畳ほどの広さのフローリングの部屋に、パイプベットとデスク、そして衣類をしまえるチェストが置いてあった。
クローゼットも付いている、シンプルだが使い勝手の良さそうな部屋だった。
「ゴメンね、あまり良いの用意出来なくて。」
と、綾乃が謝って来た。
「ううん、ありがとう。
でも、こんな広い部屋、使ってもいいの?」
と、悠理は訊いた。
「うん、自由に使ってね。
今日からここが、悠理ちゃんの部屋なんだから。」
と、綾乃が笑顔で答える。
「綾乃ちゃん、ありがとう。」
悠理は頭を下げた。
━━綾乃は、密かに思っていた。
(また、悠理ちゃんの笑顔が見たいな…)
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