その一 末の龍王・葵

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 主を促し、その華奢な手を取って立ち上がらせようとして、暁はその指先の冷たさに驚く。 「宮さま、一体何時いつからこちらにおいでだったのです。このように、冷え切って」  あわてて自分の着ていた外衣を脱いで主の体を包んでやる。触れた肩もまた、氷のように冷えきっていた。 「有難う、(さとる)」  こちらを見上げ、ふうわりと笑んでくる主の、その微笑み。出会ったその日と変わらないその笑顔を護るためならば、暁はどのような苦悩も障害も避けぬ覚悟であった。これはしかし暁に限らず、この水連宮の従祀みなが心に誓っていることでもあるのだが。 「参りましょう」  これ以上温もりを逃さないようにと、暁は小さな主を抱くようにして、その手を握った。  主はなにか云いたげに唇を少し開いた。このような寒い宵にまだ外に出ていたい理由は一体なんであろうか、寝所に戻るのを渋る様子もちらと見せる。  訝しく思いつつも、体の弱い葵の健康管理に常日頃いちだんと気を使っている暁であるから、この寒い夜風にいつまでも晒しておくわけにはいかない。  主の可愛い手を引いて、渡り殿を歩く。  こうしてじかに触れ合えるのも、将宮としての、従祀長としての特権というに等しい。  政争に敗れて国を追われた孤児(おやなしご)の身である(さとる)には、今のこの地位は、過分な(ほまれ)であった。
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