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プロローグ
「自動車保険で年間9万3千円も取るのか!? いくらなんでも高すぎる!!」
副業で大手損保の代理店をやっている僕は、電話の向こうにいる40歳も年上のお客様の怒鳴るような声にビクッとしながらも、俺は代案を出すべく交渉を続けた。
「そんなこと言っても、うちだとこれが限界だよ。条件を変えれば下げられるけど」
うちで出しているプランは対人対物無制限、エコノミーの車両保険とレンタカー特約、弁護士費用特約(※)もつけている。
「いや、やっぱり高すぎる。テレビでやってる、あずみ損保に変えるから。そっちの方が安そうだからな」
あずみ損保とは、新進のダイレクト型自動車保険会社で、各種メディアで積極的に宣伝をしている。取りつく島も無さそうなので、俺はやむなく降りることにした。
「わかったよ……、オヤジ」
お客様と言っても今回の相手は俺のオヤジだ。
地方都市から車で30分ほど行った片田舎に住んでいて、今年で75歳になったのだが、1か月に2〜3回、友人と釣りに行くために片道200キロ以上離れた湖まで行くなど、まだまだ元気なアウトドア派だ。
しかし寄る年波には勝てないのか、2年前に軽い物損事故を起こしていた。
自動車保険は僕のところに入ってくれていたのだが……、契約1本減るのはツライ。
電話を切ると、何気なくつけていたテレビに綺麗なお姉さんが映っている。
『今すぐお見積もりを! あずみ損保の自動車保険!』
にこやかに自社の保険をすすめる、画面に映る彼女を俺は恨めしく見つめるのだった。
※=もらい事故で、自分に責任が無く相手が無保険の場合は保険会社が示談交渉に入ることが出来ない。
この場合に発生してしまうことが多い、弁護士費用を補償する制度。
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