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 山中の屋敷にいたのは、確かにバケモノだった。  但し、バケモノはオレがこれから監視役として仕える、この屋敷唯一の住人ではない。  オレに言わせりゃ、バケモノと呼ぶべきは、屋敷で働く使用人達の方こそが相応しかった。  念の為に言っておくが、屋敷で働く使用人達は、普通の人間だ。  屋敷の敷地内にある宿舎にて、彼らから聞いた話によると、使用人のほとんどが、オレと同じく分家の出らしい。  宿舎内での彼らを見ていると、遠い近いの差はあれど親戚関係にある為か、円滑な人間関係を築いているようで、団結力が強いのが宿舎内での朗らかな雰囲気でわかった。  だが、そんな彼らも、宿舎を一歩出れば、まるで別人のようになる。  宿舎に自我と感情を置いてきたのだろうかと思うほど、顔は常に無表情で、一切の私語も無駄な動きも省き、与えられた役目を坦々とこなしていくのだ。  ――オレ、からくり人形の世界に迷い込んじまったのか?  屋敷に到着後、そこいらで働く使用人達を見たオレは、その虚ろな表情と機械的な動作に、肝が冷えた。  だが、オレが何よりも怖いと思ったのは、徹底して公私を区別するその有り様ではない。  彼らは皆一様に、仕事仲間を非常に信頼しているのが、連携の取れた働きぶりや、最小限の言動で意思疎通を行っている様子から感じられた。  だが、彼らは最も気遣いを以て仕えるべき者――つまり、この屋敷のただ一人の住人にのみは、忠誠どころか好意のひと欠片も持ってはいないようなのだ。  何故、そう感じるのかって?  理由は、ほぼすべての使用人が陰で、自分達が仕える者のことを憎悪すら籠めてこう呼ぶからだ。  魔物、バケモノ……と。
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