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◆◇◆◇
「あの女に人の心なんてない。あいつはバケモノだ」
腹の中の我が子を取り上げ、そのまま盗んでいった、本家奥の院の女。
祖母は連れ去られた子を思い出す度に、般若のような形相で女を罵った。
「あいつは人の子じゃあねえ。バケモノだ」
オギャアと産声を上げたその次に、ニッタリ笑った赤子。
「礼を言うよ」と舌足らずに告げた我が子の様を振り返る度に、祖父は恐れ慄いた。
「なにが実の兄弟だ。冗談じゃねえ。ありゃあ、バケモノだ」
奥の院の女に盗まれた赤子と三十余年ぶりに再会し、その父親と同じく、陰で"バケモノ"と呼んだ者がいる。
かつて肉親にバケモノと言わしめた赤子の、実兄である、オレの親父だ。
オレが親父の口からソレを聞いたのは、今年の冬の始め――やたら冷たい木枯らしの吹く日のことである。
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