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 その日、オレら親子はウチの本家に呼び出されて、そのお屋敷内にある"奥の院"だとかいう大層な所に赴いた。  まあ、兎にも角にも矢鱈と気疲れする本家訪問だったが、オレよりも親父の方がより疲れたらしい。  親父は本家から帰り着いたと思ったら、自宅の玄関でへたれ込む始末だ。  そうしてボソと、『バケモノだ』と宣ったのをオレは聞き逃さなかった。 「なあ、父ちゃん。いいの? 兄弟をバケモノ呼ばわりなんてさ」  非難めいたものをオレが尋ねると、真っ青を通り越して、真っ(チロ)くなった面の親父がこちらを睨む。 「馬鹿抜かせ。赤子の自分を連れてったあの――鬼だか魔物だかバケモノだか呼ばれる――女と連れ添うだけでも気が知れねエってのに、あまつさえ馬鹿デケェお屋敷の奥の奥に棲み着いて、国のお偉いさんにまで傅かれている実弟(アレ)をバケモノと呼ばずになんと呼べってンだ」  そう捲し立てる親父の剣幕に物怖じしたオレは、黙り込んで俯く。  だが、項垂れつつも、腹の中では思うことが少なからずあった。 (父ちゃんよお、叔父上殿をバケモノっつった理由は、それだけじゃあないだろうよ)  本家奥の院に住まう親父の弟(叔父上殿)。  祖父は叔父の出生時の様子を思い返しては、身を震わせて、かの人をバケモノ呼ばわりした。  その理由は、赤子らしからぬ様を見せつけられたことへの恐怖である。  だが、親父がかの人をバケモノ呼ばわりする理由に、祖父の理由(それ)は大して含まれない筈だ。  何故なら、親父は出生後間もなく連れ去られた叔父の存在など、最近まで記憶にすらなく、祖父の語る叔父の逸話だって、「夢でも見たんだろう」と取り合ってなかったのだから。  かと言って、先に述べたような非常識さに対する蔑視や、立場の違いに対する畏怖だけが理由でもなさそうだ、とオレは子どもながらに直感した。  ならば、親父が身内の一人をバケモノと呼びたくなる理由はなんだろう?  思い当たる点はいくつかある。  例えば、親父と叔父は血が繋がっている筈なのに、まったくもって似ていない点だ。  容姿、性格、品格等、どれひとつとして、彼らには似通ったところがなかった。  性格やら品格は、育った環境が異なるのだから、似ていないのは仕方がない。  問題は容姿だ。大してどころか、ちいとも似ていない。  叔父の口元と輪郭に、祖父母の面影があるかも? 程度で、よくよく見ても、実の兄弟とは言い難い。  ただ、容姿云々の違いなんざ、きっと親父にはどうでもいいものの筈だ。あと、立場の違いも些末なものだろう。  親父は、そんなことで人をバケモノ呼ばりするような人間ではないから。  それならば、叔父のなにが、父にバケモノと言わしめたのかと言えば、それは恐らく、力だ。
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