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(ただなあ、親父殿よう)
親父に捲し立てられてから、心の中できっかり三十秒を数えたオレは、意を決して、目の前の人に尋ねる。
「ひとつ訊いていいか、父ちゃん? その魔物だかバケモノだかの子となると、一体全体、なんになるんだろうな?」
「そりゃあ、お前……」
ゴニョゴニョと口を濁す親父の、言いてェことは分かった。
(つまりは、バケモノの子はバケモノってか)
オレ、文緒、十歳。
通ってる学校は、じき、冬休みになる。
二学期終業式が済んだ後、オレは半月ばかし家を留守にする予定だ。
理由は簡単。奉公に行くからさ。
そう、くだんのバケモノの子の、"監視役"とやらにさせられた。他ならぬ、叔父上殿によってな。
親父殿は叔父上殿と"家"からのお達しを受けて、黙って息子を差し出したのだ。
(なにが、お前も旨い御飯が食いてエだろう、だ。餌チラつかせて、手前ェのガキをバケモノに差し出す親のことは、一体全体、なんて呼ぶんだろうな?)
奉公先へ赴く道中、揺れの激しい車内にて、オレは端金で息子を売ったクソ親父を思い出して、フンッと鼻を鳴らす。
気晴らしに車窓の外を見遣ったが、見えるのは鬱蒼とした雑木林だけ。
車が寂れた田舎道を通った時は、とんだ辺境に連れられたと思ったが、山に進入してからは気が滅入る一方だ。
(はてさて、オレは半月後、五体満足で山を下りれられるのかね?)
小さくため息を吐いたその時、ふいに車の速度が緩まる。
なんだろう、と進路先を窺えば、そこには大きな屋敷がポツンと一軒建っていた。
どうやらあれがオレの奉公先らしい。
さあさ、お楽しみのお時間だ。
あれに住まうは、どんなバケモノか。とくと見てやろうじゃあないか。
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