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 使用人達が仕える相手に対し、陰口を叩いていると知ったオレは、たいそうムカッ腹が立った。  何故って、彼らから実にナンセンスな呼ばれ方をされているソイツ――矢潮(ヤシオ)は、オレと年端のそう変わらない少年だからだ。  おかしいだろうよ。こども一人を相手に、大勢の大人が陰口叩くなんて、普通じゃねえ。  しかも、ヤシオは好きでこの屋敷にいるのではなく、"家"の大人達の勝手な都合で、ここに幽閉されているのだから。  そりゃあな、ヤシオのことを魔物だのバケモノだのと呼びたくなる気持ちはわからないでもない。  だってコイツときたら、バケモノ級のキレーな顔をしてるんだもんよ。  ウチの学校で男共にこっそりと、マドンナって呼ばれてる女子だって、ここまで美人じゃねえぞ。  肌は、雪のように真っ(チロ)い。  艷やかな黒髪は七三で軽く分け、服はいつも和装。  黒縁眼鏡のレンズ越しに見える瞳は、珍しい赤銅色。睫毛はかなり長い。  体の線なんて細くて、なにかの弾みで折れっちまやしないかと心配になる。  いつも物憂げな顔(仏頂面とも言う)で、おまけに首やら手首に包帯を巻いてるもんだから、如何にも儚げな印象を受ける。  ここまでキレイな御尊顔(・・・)じゃあ、そらあ、嫉妬する奴もいるだろうよ。  そのクセ、一度口を開きゃあ、鋭く突き刺すような罵詈雑言を躊躇なく投げつけやがるから、カチンとくるかもしれねえ。 (あー、あと、あれは困るな)  隙さえあれば、しょっちゅう姿を眩ます――だから、監視役が必要なのだ――から、探す方は大変だ。  一日に五度以上、強制かくれんぼを実行されりゃ、その高頻度の見事な消えっぷりに、つい、バケモノとも呼びたくもなるわ。……いや、この場合は、アヤカシと呼ぶ方がふさわしいか。  けどな、やっぱり、オレはこう思うんだ。  バケモノはヤシオじゃなくて、使用人らの方だって。  相手によって、態度をガラリと変える二面性もさることながら、こどもを標的にして、陰口を叩き合う様を窺うと、いつもバケモノを目の当たりにしているような心地にさせられるのだ。  で、そんなバケモノ共がにわかに騒ぎだしたのは、オレが屋敷に来て十一日目の夜のことだった。 「矢潮様、客人がお見えです。お役目を果たされますよう」 「応」  食堂で夕食を終えて間もなく、矢潮の元に使用人頭が現れ、無機質な声でこう告げる。  それに対して、矢潮は端的に返答してから、戸口で控えていたオレに一瞥くれた。 「監視役として付き合って貰うぞ、フミヲ」 「お役目ってやつにか? 何するんだ、今から」  準備の為に、さっさと自室に戻る矢潮の後を追うと、奴は振り向くことなく返答した。 「決まりきったことを訊くな。俺は祓い師だ。その役なんて決まりきっている」
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